日英キュレーター交流プロジェクト 5月10日
**5月9日から18日にかけて、ブリティッシュ・カウンシル主催の日英キュレーター交流プロジェクトに、学芸員の坂本顕子が参加しています。現地からのレポートをお送りします***
5月10日 日英キュレーター交流プロジェクトとは、日本から8人のキュレーターが参加して、ロンドン、グラスゴー、ニューカッスル、ノッティンガムの美術館やアートスペースを訪ね、現地のキュレーターたちと交流するというプロジェクトです。 まず訪ねたのは、ブリティッシュ・カウンシルの本部。トラファルガー広場の脇にあり、入口ではバリー・フラナガンのウサギが迎えてくれます。ここでヴィジュアル・アーツセクションのRichardとEmmaにレクチャーを受けて、視察のスタートです。 一つ目の視察先は、テート・ブリテン。英国美術の総本山であるここでは、彫刻界の大巨匠ヘンリー・ムーア、動物の糞で聖母を描いたことでセンセーショナルな反響を呼んだアフリカ系アーティストのクリス・オフィリの回顧展が行われていました。 しかし、みっちりとしたスケジュールのため、展覧会は運動会並みのダッシュ!ランチは5分でサンドイッチを詰め込み!そのままオフィスで、シニア・キュレーター、Judith Nesbittのレクチャーを受けました。 ベテラン・キュレーターの貫禄漂うJudithから、テートのコンセプト、展覧会の展望、ターナー賞(英国現代美術界で活躍する作家に贈られる賞。イギリスの主要な美術館のキュレーターが審査員となりコンペが行われる)の状況を聞き、さらには展示室の温湿度管理にいたるまで(!)、怒涛のようなトークが続きます。 その後、最中心部から少し離れたエリアにある、ガスワークス・ギャラリーにむかいました。ガスワークスは、トライアングル・アーツ・トラストという独自のネットワークを持ち、アフリカ、南米、アジアなど世界の様々な国からアーティストを受けいれる、アーティスト・イン・レジデンス(作家による滞在制作)事業に力を入れています。ディレクターのAlessio Antonioniの軽妙なトークのあと、ギャラリー・スペースの上のレジデンスルームに滞在中のアフリカ系アーティストのアトリエを拝見しました。 初日は、「英国美術とは何か」という歴史をオーガナイズしていくテートの気概と、多民族国家という背景の中で、地域において等身大の活動を続けるガスワークスという対照的な、しかし非常に英国らしい二つのスペースがとても印象的でした。しかし、両者に共通して言えるのは、ヴィジョンや活動に淀みがなく、また、私の専門(現代美術/美術教育)にも関わって言えば、地域に対する教育プログラムをひとつの「武器」として、各機関からの助成を引き出しているという点が戦略的だと感じました。 それは、基本的に美術館が入場無料で、国家/地域の政府からの助成が、活動資金源となっている英国という国の文化政策にも大きく関わっているといえます。世界中から観光客が押し寄せるテートは別格としても、ガスワークスのような観光客がいかず、若手のアーティストのチャレンジの場としてあるオルタナティヴ・スペースにおける「教育」というものに対して資金を提供する(ただしそのディレクションのあり方、作品のクオリティ、プログラムの内容に関しては、厳しく審査する必要はあると思いましたが)文化機関の在り方が随分日本と差があるようです。 公立美術館中心で、その資金をほぼ100%ひとつの自治体の税金によってまかなうことが多く、学芸員の分業化が少ない日本では、「美術文化の振興」「地域おこし」「観光」「入場者数/収益」「教育」が非常に複合的にあいまいに行われています。(もちろん日本ならではのきめの細やかな運営やプログラムの質の高さなど、誇れる点も多数あります) 今一度、そのミッションとは何なのか、自分たちの活動を見直し、うまく「強調して」伝えることの大切さを感じた1日でした。 いつも熊本弁のリスニングに慣れた耳には、嵐のような英語ラッシュにもう頭はパンク寸前。時差ぼけもあり、抜け殻のようになってホテルに戻り、「明日からどうなるのやら!」という不安を感じる間もなく、ほぼ気を失って眠りについたのでした。 |