5月13日

今日の訪問地のグラスゴーは、かつての繊維などの主な産業の衰退により失業者のあふれる街でしたが、1980年代に政府が重点的に美術館などへの設備投資やイベントを行った結果、見事に復興し、ヨーロッパを代表する文化都市になったことで知られています。

最初に、市内の画廊、The Modern Instituteを訪問し、ディレクターのToby Websterに話を伺いました。スペース内では、イギリスを代表する若手アーティスト、Jim Lumbyの見ごたえのある展示がおこなわれ、地方都市の画廊でもこれだけ充実した内容が見れることに感動したとともに、Tobyの素朴な、しかしグラスゴーのアーティストを応援していこうという真摯な姿勢に、とてもあたたかな気持ちになって、ギャラリーを後にしました。

次に訪れたのは、The Common Guildというスペース。市内を見渡せる丘の上にあります。チャーミングなディレクターのKatrina Brownにギャラリーの活動と、彼女が同時にディレクターを務めるGlasgow International Festival of Visual Artについての話を伺いました。残念ながら火山噴火の影響で集客が伸びなかったとのことですが、地域の美術館、画廊、大学、アーティストと市民を広く結びつける紐帯としての、フェスティバルの意義はとても高いように感じました。

また、ここで興味深かったのは、Detourと名づけられた、ロンドンのギャラリーや批評家を訪問するプログラムです。ChisenhaleのPollyやCAMKのアドバイザーを務めたJuliana Engbergなど、第一線で活躍する人に的を絞ったコアなプログラムに、アーティストや研究者を育てようとする意気込みが感じられました。

最後は、MaryMaryのディレクター、Hannah Robinsonを訪ねます。そこ抜けに明るいHannahに圧倒されながらも、地域のそれぞれの個性的なディレクター達が、美術の活況を生み出していることに驚かされました。

その移動の間に、マッキントッシュのデザインしたグラスゴー美術学校、展示室以外にもオルタナティブなブックショップや、DJブース、カフェを備えたアートスペースのCCA、Fiona Tanのビデオ作品や、multi-storyと名づけられた学生が中心の質の高いビデオインスタレーションなどが印象に残ったGOMAなどに立ち寄り、グラスゴーのアートシーンに触れました。

その中でも最も強いインパクトを残したのがTRAMWAYでした。古い列車倉庫を改装した複合アートスペースですが、バレエ・スタジオ、アトリエ、芝生広場、カフェに、平日の夕方ながら、ベビーカーを押したたくさんの子供づれが来館し、のびのびとした雰囲気です。

その隣に展示されたスイス人アーティストのインスタレーションは圧巻でした。刑務所の面会室、サルベージ船の居室、軍隊の狭い宿舎、グラスゴーの2大サッカーチーム・セルティックとレンジャースのコアなファンだけが集まるサッカー・パブなど、一般人が覗くことのできないある種‘極限’の世界が、そのまま再現されています。その中央に、飛行機事故にあった機体の残骸がそのまま展示されているのです。バラバラになった機体、焼け焦げた座席や乗客のものと思われる衣服など、その事故の凄惨さを想像すると、心が痛みます。ユーモアと厳粛さ。その見事な対比に心を揺さぶられるとともに、それが子ども達の賑やかなはしゃぎ声が響く、隣のスペースで、しかも、無料で行われていることの凄さ。イギリスのアートの底力に、驚かされるよりほかありませんでした。

この日はそのまま、列車でニューカッスルに入りました。
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