CAMKブログCAMK Blog

美術館の日常のあれこれをお伝えします。

認知症対象 対話型鑑賞会

2023.04.09 , ,

ギャラリーⅢ「目の部屋と手の部屋」の関連イベントとして、認知症の方とその介助者向けの対話型鑑賞会を行いました。

アーツアライブ代表の林容子さんを講師(アートコンダクター)にお招きし、「アートリップ」(アートを通した時空の旅)を楽しみます。展示中の塔本シスコの作品2点を、1時間かけてじっくりと鑑賞しました。

 

はじめに観たのはこちらの作品。

「作品を隅々までじっくり見てください。何が見えますか?作品のどこが気になりますか?」

皆さんの最初の興味は、画面左の動物に向きました。
多くの人が「牛」と答える中、「鹿かも」という意見も。
女性やネコと比較してサイズが小さいことや、ツノの形についての指摘がありました。
また「季節は春だと思う」という参加者の発言から、画面に描かれている花について丹念に見ていきました。
桜なのか梅なのか。花びらの形や色、枝の描き方にも注目。
見ているうちに、「花の香りがするような気がする」という素敵な感想も。
最後に、描かれている女性について語りました。

‐とてもオシャレな服装。
‐ストールで髪を覆っているので、その時代のファッションを知っている年齢では?
‐眉毛がキリリとしていて、サングラスもかけているから若い人。
‐赤い口紅なので若い人。
‐何歳でも赤い口紅は使う!

女性の年齢をめぐってそれぞれの根拠と考え方が異なり、おおいに盛り上がりました。

次の作品はこちら。縦180㎝、横は270㎝もある大作です。
画面のほとんどが海というこの作品には、たくさんの魚、漁をする人々、海水浴をする子供たち、「天草ベベン子丸」と書かれた赤い船が登場しています。

参加者の中にはかつて漁師だった方がおり、描かれている魚の種類を説明してくれました。
また各船に付いている丸いものは、獲った魚を入れておく、カズラの蔓で編まれたカゴだろうとのこと。(冷凍技術の無かった時代の、魚の鮮度を保つ方法なんですね。)
《ふるさとの海》は画面裏にシスコ本人による説明書きが沢山残っていますが、このプログラムでは描かれていることの「正解」を求めるのではなく、一人一人の「見えたこと」「思ったこと」を重視します。なぜそのように見えるのか、なぜそう思ったのかをアートコンダクターが都度尋ね、参加者はその理由を画面の中に求めていきます。
この作品を見ていくうちに、皆さんの子どもの頃の思い出へと話が拡がりました。
天草の海に行った思い出、海の上に作られた小学校(!)に通っていたこと、海よりも山で遊んでいたこと、などなど。

気が付けば1点に30分近くかけて鑑賞していました。
初めは発言に戸惑っていた方も次第に抵抗感が薄まっていき、徐々に自分の言葉を紡いでいっていました。また皆さんの記憶を呼び起こすことにもつながり、一人一人の人生が見えてくるような言葉にも出会うことができました。「他の人の発言によって先入観がひっくり返された。」「世代の違う人とのお話が美術を介せてできて面白かった。」といった感想も。参加者の皆さんにとって、忘れがたい“アートの旅”となったようです。

[参加人数:8人]

*認知症の方を対象としたこの鑑賞プログラムは、認知症によるうつ症状の改善や予防、幸福度、生活の質や健康状態を向上させる効果が指摘されています。

カテゴリ別一覧Categories

月別アーカイブArchive