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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

CAMKコレクション展 Vol. 7「未来のための記憶庫」館長挨拶

2023.04.28 , , , ,

コレクション展「未来のための記憶庫」が明日4月29日からはじまります。
熊本市現代美術館は20周年を迎え、また次の年に向かっています。

美術館の大きな役割の一つとして、「収蔵する」「コレクションする」ということがあります。
そしてその収蔵したものを活用して展覧会を開催し、みせていきます。その中には、初めて作品をみて「こんなものもあったんだ」という方もいれば、「この作品、前に展覧会でみたことがある」という方もいると思います。作品をみることによって過去を思い出したり、その作品から未来を想像したりということがおこなわれるのが美術館の役割としてあると思います。
「熊本市現代美術館の役割は何か?」と問われましたが、過去と未来をつなぐことが熊本市現代美術館の役割です。これまでコレクションしたものを、今生きている未来を担う方々にみてもらう。そのようにつなぐ役割として、現代美術館はあると思います。

開会式の会場となっているホームギャラリー(図書室)にはいろいろな本があります。
「記憶」といったときに我々は何を思い出すかというと、書物で歴史を勉強するということがあります。記憶に書かれた歴史。江戸時代があり、ルネッサンスがあり、古代があり、そういったさまざまな歴史を文字で共有します。
では、美術を通して過去を想像する、過去を自分の中で反芻する、もう一度蘇らせるということはどういうことでしょうか? 作品は何年に制作されたかということも一つの参考になりますが、作品には作家がいます。作家が若いときに描いた絵、壮年期に描いた絵、歳を重ねてから描いた絵というのは、捉え方が違ってきます。同じ時代でも、きっとその人が何を感じたかによって作品に描かれた時代は違ってくることが一つの魅力です。

人間は1000年生きた人はいません。人間の寿命はだいたい100年です。100年経験したことを次の時代につなげていきます。科学や医学は伝承することができます。宇宙にロケットをおくることも、一人の100年の時間の中ではできませんが、先人たちが蓄積した知恵や記憶を引き継いで、どんどん進化していくわけです。
芸術や美術、特にアートというものは進化していくのでしょうか? 人間は同じ間違いをしますし、同じことで悩みます。1000年前の人と今の人とどれだけ違うのかというと、結構同じです。心や感情、情緒というものは、1000年前の人も2000年前の人もあまり変わらない。変わらないことの素晴らしさがあると思います。そんな感情をもった作家たちが表現したものが、アート作品になります。
1000年前の若き作家がその時代の何をみてどんなことを感じたのか? そして今日の作家が何をみて何を感じたのか? そして今日、現存するわれわれがそれをみてどう感じるのかは、まさに様々です。さまざまな時間や価値観がその中には動いています。

作家の「作品をつくりたい!」「絵を描きたい!」という動機がどこにあるかというと、自分の中にぽっかり空いた穴を埋めようというものだと思います。結果的にはそれが表現になっていきます。何も感情が動かないところには、表現をしようという動機は生まれません。どの時代の作家たちも何かのきっかけでぽっかり空いた穴があります。それは個人的なものです。しかし個人のものであっても、その時代時代の背景の中で個人は生きているわけです。例えば天変地異があり、個人的な感情があり、社会との価値観の違いがあったりします。
世界では「また人間はこのことを繰り返すのか」ということが行われています。同じことを繰り返してしまうのが人間です。
その時代の表現者のものをみて、それをどう未来につないでいくのか。これからも悲しいことが繰り返されていくのか。それとも、ひょっとしたらまた違うフェーズで我々が次の時代をつくっていくきっかけを我々が生み出すことができるのか。未来のために先人たちが残した記憶というものを、現代美術館としては、空間をつかって企画し、体感していく場所にしていきたいと思っています。
熊本市現代美術館は20年が経ち、21年目になりました。次なる100年、1000年に向けての収蔵であったり展覧会の企画であったりを一日一日積み重ね、展開していきたいと思っています。

私は熊本市の文化顧問という役割を4月から拝命させていただきました。美術館が対象としているのは人です。市役所が対象としているのも人です。市役所はより質の高い生活を提案していく。美術館も一人ひとりの心に対して向き合っていく。似ているところがたくさんあると私は思っています。熊本市現代美術館の館長としても、熊本市の文化顧問としても、両方をつなげていき、どこもやったことがないような行政と美術の融合を熊本の地で実践していきたいと思っています。

今後とも熊本市現代美術館にも熊本市にもご尽力どうぞよろしくお願いいたします。

日比野克彦

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