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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

「明後日朝顔プロジェクト熊本 種の収穫」ワークショップを開催しました

2023.10.28 , ,

当館では「明後日朝顔プロジェクト」というアートプロジェクトの参加地域の一つとして、”明後日朝顔”を育てています。

明後日朝顔とは、朝顔の品種ではなく、「明後日朝顔プロジェクト」というアートプロジェクトで様々な地域の人たちと育てている朝顔のこと。

 

↑ある初夏の明後日朝顔。現代美術館エントランス前。

 

10月にもなるとすっかり秋めいて、朝顔も秋の姿になってきました。

アーティストの日比野克彦さん(現在は当館館長でもあります)が、2003年に新潟県十日町市の莇平(あざみひら)という里山の集落に暮らすの人々と出会ったことから始まったアートプロジェクトです。もともとは、日比野さんが大地の芸術祭の出品作品として構想した「明後日新聞社」というプロジェクトから、偶然に、でも必然的に派生して生まれました。

「明後日」とは、「明日よりもちょっと先の未来」を示す言葉。明日よりもちょっとあいまいで、可能性に満ちた未来を想像し、物事を余白を残したままで受け止める姿勢を持った新聞(!)を刊行する日比野さんによるアートプロジェクト明後日新聞社が、莇平集落の人々と出会ったことで文化事業部として朝顔を育て始め、いろいろなことがあって、種が各地に広がり(熊本にも届いて)もう20年!

ということで、10月9日(月祝)、熊本市現代美術館でも、朝顔の種を収穫するワークショップを開催しました。

今回のワークショップ。上通まちなかゼミナール参加企画として開催たこともあり、お越しくださった方々は、園芸や植物、特に朝顔がお好きな方々ばかり!「明後日朝顔プロジェクト」は、朝顔を育てることに関してはごくごく一般的な方法で、朝顔が育とうとする強い力に助けられているものです。

プロジェクトで大切にしているのは、みんなで朝顔を育てること。自分たちの手で少しずつ風景を変えてみたり、朝顔に植物の時間を教わったり、種の持つ可能性を考えたり、朝顔を育てていなかったら出会うことのなかったであろう人と出会ったりすること。それによって、自分の住む地域のことを知ることにもなること‥。

園芸の知識をお伝えすることはできないけれど、朝顔を育てることって、こんな風にも捉えられ、広げていくことができるんだなあっていう一例として活動をお話し、一緒に種を取って、種のことを考える時間を共に過ごしたいと考えました。

2003年に明後日朝顔が始まったきっかけや、その後、プロジェクトはただ朝顔を育ててきただけでなく、種を介して日本各地の人々が出会ったことで、最初はだれも想像していなかったような様々な出来事、日比野さんの新作、などを生み出していきました。

そのうちの一つ、2007-2008年に熊本市現代美術館で開催したHIGO BY HIBINOという展覧会

そこでは、朝顔の種をモチーフとした、日比野さんと熊本の職人さんたちとのコラボレーション作品が誕生しました。

この日は、その中の2点、天草陶板の「種器」という作品と、肥後象眼の朝顔の種をご紹介!

写真が見づらいのですが、「種器」をみんなで見ているところです。

 

さて。ここまでは、明後日朝顔プロジェクトのご紹介。ここからはみんなで体を動かして収穫です!

下準備をちょっと紹介すると‥、一年間、朝顔の様子を見続けてきてくださったわれらが次長が朝顔が育つ足がかりにしていたネットを外して、種を収穫しやすいようにしてくださいました。

さあ、参加者のみなさんと種の収穫です!10月初旬でも、すっかり黒々とした種が結実しています。ちょっと触ると弾けるくらいに実った朝顔の種。面白いほど採れちゃいます。

収穫した種をもち、再び室内へ戻ります。

おお!黒々とした種たち。

 

「これから、収穫した種を数えてみます。一粒ずつ!」

「えーー!全部!?」

・・そんな声も上がったのも束の間、みなさん、それぞれの方法でどんどん数えてくださいました。日ごろから園芸に親しんでいる方々、とても心強い!

種の並べ方を見るだけでも、一人ずつ違ってて面白いですね。そんなこんなで、あっという間に数え終わり、2023年の収穫数が決まりました!

この日を迎えるまでにすでに弾けそうな種を、われらが次長が収穫してくれていたものもあり、全部合わせて6093粒。

昨年(2022年)は収穫数2864粒だったので、大収穫です!

 

数を数えながら、実は、もう一つみなさんにお願いしていたことがありました。たくさんの種の中から、自分の気に入った「コレ」という種を見つけ出すこと。

朝顔の種って、よく見ると一つ一つ姿かたち、表情や色が違っています。きっと、なんだか惹かれるという種があるはず。

そして、毎年、参加地域(今年は27か所)で育った朝顔から採れた種の中から、毎年一粒、全国の種の中の”一番”を決める、キングオブ種決勝戦という大会が開催されます。そこにエントリーする、「熊本のキング」候補を探すためでもあります。

「種ってこんなに違うんですね!」

「どんな種がいい種なんだろう?」

「あ、これ、かっこいいな」

目は必死で種を追いながらも、声が飛び交います。

キングたる種の条件‥。しいて言えばその種を見つけた人の「想いの強さ」ではないかと思います(というのも、決勝時には各地域が渾身のプレゼンをして投票によって決まるからです)。そのためには、一つ一つの種が過ごしてきた時間、そして、その種の中に蓄えている記憶を想像して、想いを寄せること、でしょうか。

なので、何かビビッと感じた種があったら、それはあなたのキングなのです。

日比野さんは、朝顔の種を見て、一年の記憶を小さな体の中に蓄えて、春が来て、目覚める条件が整うと、その記憶をもとに、再び芽を出し、蔓を伸ばして花を咲かせ、種をつける‥そのことに改めて気づいて、驚くと同時に、とても大切なことを教えてもらったような気持ちになったのだそうです。震災や災害、戦争などが起こり、当たり前のことがゆすぶられ続けている現代において、でも植物は、毎年同じように発芽し、種をつけていく。この小さな体に記憶をとどめ、次の芽を出すための場所を探して旅に出る船のような、種。そして種から時間を教えてもらうのだ、というようなことを話してくれた事もありました。

 

それぞれ、自分のマイ・キング種を選んだところで、「種のスケッチ+種に名前を付ける」という、本日のワークショップのメイン活動に移ります。

画用紙に色鉛筆とパステルが画材です。

 

「絵は描けないんです~」とおっしゃりつつも、みなさんのスケッチはほんとうに素敵!

とにかく、ポイントは種をよーくよーく見ること、それに尽きます。

盛りだくさんなワークショップになってしまったので、スケッチ時間は10分ほどしか取れなかったのですが、逆にエイや!と描いてもらえることになったかなと思います。。

その人が浮かび上がるようなスケッチが生まれたので、最後に、お一人お一人から種のスケッチを見せてもらい、名付けた名前も教えてもらいました。

「武者返し」マドラスチェックな色味がとてもきれい。名前には熊本人の愛が!

「友情、仲間、助け合い、愛、ラブリー」ご自身のこれまでを振り返り、身近な方々への感謝を種に重ねて。

「Gozabune」「King Ship」船みたいな種を発見!さらに、表面に産毛が生えていることも見つけてふわふわした種の船に。

「colon」「cocolon」コロンとした形状をした、親子のような二つの種。

「クイーン23」気品のある種!色もきれいな紫のグラデーションです。

「シッポ」「トライアングル」ぴょんと飛び出たシッポのような、そして三角の種の形状に注目した絶妙なネーミング。

「まっ星(ぽし)よか」「あさってんあさ」熊本弁とビビッドな色使いが効いています!

「ガーコJr.」自分に似たところを感じた、という種に、なんとご自身のニックネームをつけてくださいました。

 

もうお一人、写真が撮れていなくてごめんなさい!「これからの品種を?」この種から、新しい朝顔の品種?が生まれることの願いを込めて、選んだ5つの種を全部描いてくださいました。

種の収穫が終わると、朝顔は、日比野さんが言うところの「種の季節」に入ります。来年の春までじっと静かに時を待つ時間。冬に過ごす種の時間が、春以降の活動を支えるのです。止まっている時間も大切なんだよ、いつか春が来たら、すっと芽が出るんだよ、と種は教えてくれます。

 

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長文のワークショップ開催報告となりました。

明後日朝顔プロジェクトは、2024年も続きます。夏には、全国の参加地域のみなさんが一堂に集まる「明後日朝顔会議」を会場熊本にて開催されることになりました。来年度は、それに関連したイベントも開催を予定しています。

ウェブやブログで告知&ご報告してまいります。ぜひたくさんの方と朝顔を介して出会えることを楽しみにしております!

        

 

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上通まちなかゼミナール明後日「明後日朝顔プロジェクト 種の収穫」

日時:2023年10月09日(月祝)13:00~15:00

会場:アートラボマーケット

参加人数:9名

 

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