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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

【報告】GⅢ-Vol.158 中村壮志展「潸潸、燦燦 | Echoes」アーティストトーク 対談:岩田智哉

2025.03.22 , ,

ギャラリーⅢで開催中の中村壮志展「潸潸、燦燦 | Echoes」の関連イベントとして、アーティストの中村壮志さんとキュレーターの岩田智哉さんの対談をおこないました。

対談は、中村さんの展覧会を企画したこともある岩田さんが、中村さんご自身や作品について問いを投げかける形で進みました。

はじめは、今回の展覧会の作品の意図について。

金沢21世紀美術館で展覧会を開催中に能登で地震が起こり、展覧会が中止になったことから「黙祷」という行為について思考した作品。熊本の雨乞い太鼓に着想を得た作品も雨を請うという別の形の「祈り」の作品。「そろそろ帰ろうか」という見る側がどう感じるかによって見え方ががらりと変わる言葉による作品など、岩田さんの巧みな問いかけによって、「黙祷すべきものの多さに愕然とした」「個人の力の弱さをまざまざと感じた」や「個人と集団のアイデンティティの曖昧さに興味がある」「HOME(家)は後天的に変わってくる」など、中村さんの想いや思考の一端が引き出されていきました。

また、過去の作品を紹介しながら、映画のように作り込まれた映像インスタレーションを制作していた中村さんが、ある作品を転機に、状況だけ設定し、思い通りに動かない他者の動きを生かした作品制作に挑み、今回は更に伏線だけが設定されていて、見る側がそこから自分なりの物語を読み込んでいくという形に移っているという、アーティスト本人が言語化できていない変化が、岩田さんというキュレーターが介在することでふわりと浮かび上がってきました。

中村さんは「人のスケールを超えた壮大な世界観で作品をつくるアーティストもいるが、自分は人間の時間以外を考えられない」と話していましたが、その等身大のスケールが、むしろ見る側の私たちが自分と向き合う時間を提供してくれるような気がします。

岩田さん自身もキュレーターとして、アジアのアーティストのリサーチをする際に、英語が通じるコミュニティとしか接点が持てないことやグローバルな流れに乗っているアーティストにしか出会えないことなどに課題を感じているそうです。一方で、日本における大都市と地方では、発表の場、鑑賞機会の多寡、教育的システムの壁などがあり、地方に根ざしてアーティストが活動を続けることはなかなか厳しい状況です。

中村さんのようなアーティストが根を下ろして活躍できるまちでは、モヤモヤと思考する機会が増えることで、多様な考え方を面白がることのできる人が増え、自分とは違う考え方にも寛容になれる人が増えるような気がします。アーティストの未来からまちの未来まで、様々なことを考えさせてくれる1時間半でした。(15名)

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