フランスを代表する現代アーティスト、ソフィ・カル(1953 -)の《盲目の人々》は、
生まれつき目の不自由な人に「美のイメージとは何か」と尋ね、その対話を写真と言葉で
表現したインスタレーションだ。本作は、私たちが普段、何かを「見ている」と思いながら、
実は何も「見ていない」ということに気づかせ、「美」とはその人の生き方や考え方の中から、
生み出されてくる事を教えてくれる。
作品は、カルが撮影した語り手のポートレート写真と、語られた言葉をテキスト化したもの、
そして、その話を聞いて、カル自身がイメージを想像して撮るなどした人や物、風景の写真
によって構成される。
しかし、この作品自体を、視覚に障害のある語り手自身は、見る事はできない。
それは、自己と他者のコミュニケーションの限界を示すものだが、決して皮肉なことではない。
その限界を知ることから、すべては始まるのだ。人と人は様々なものを分かち合い、
補い合おうとすることで、また、新たなコミュニケーションが生まれてくるのである。