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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

「ライフ 生きることは、表現すること」展が終了しました

2020.06.15 ,

4月11日に開幕するはずのところ、新型コロナウイルス感染拡大防止のための休館が続き、結局、熊本市現代美術館は5月21日に再開館。休館日を返上して開館しましたが、当初の約半分の会期となりました。
それでも開けられて良かったです。ここ数日の大雨にもかかわらず、4,000人を超える方にご来場いただきました。
応援してくださった皆さま、観にきてくださった皆さま、本当にありがとうございました。

「ライフ」展は、「生きること」と「表現すること」が直結している人、「表現」が自分や他人(ひと)が生きていることの肯定につながっている人など、表現する人、表現された作品、そして彼らを支える人々の存在も含めて紹介する展覧会でした。

「本物に触れる」という意味では、期間も短く関連事業も全て中止となってしまいましたが、Web上においてはかつてないほど丁寧な発信をしました。むしろ、通常は展覧会をご覧にならない方の目に触れる機会は増えたのではないでしょうか。
もしかするとこれからは、展覧会を観るひとつの手段になっていくのかもしれません。

一方で、やはりこの空間で見ていただきたいと改めて感じました。
会場でひとつひとつの作品に対峙する時間や距離は人それぞれ。だからこそ、作品のサイズや質感や揺らぎ、手の温もりとしか言えないようなものを、自分と作品と空間との最も好ましい関係の中で感じとることができるのではないでしょうか。
小説を読むように、人(アーティストや企画者)の考えていることが判ったような気がしたり、自分もそういうことあったと懐かしく思ったり、展覧会や作品それぞれの人柄のようなもの、「この人(作品)なんとなく好き」と思える何かは、その距離で、その空間で対面するからこそ生まれるものではないかと思いました。
コンサートも演劇も、その空間での音の響きや反響、或いは観客同士の一体感のような、人と空間の相互作用が、感動を弥増すからこそのホールであり舞台なのだと思います。

 

「不要不急」や「三密」、「新しい生活様式」というコロナ禍に生まれた言葉は、私たちに注意を促すには判りやすい単語でした。みんなが懸命に自粛したおかげで、緊急事態宣言も解除されました。
でも同時に、不要不急とみなされたものを我慢することがどんなに人々の心をこわばらせてしまったかも、私たちは目の当たりにしました。
劇作家の平田オリザさんがNHKのインタビュー(4月17日)の中で「命の次に大切なものは人それぞれ」という話をされていました。ライフ展の出品作家たちの表現活動も、他の人から見たらどうしても必要なことでないかもしれません。でも彼らにとっては、表現することは、生きることそのものなのです。だとしたら、私たちが我慢して来たもの、誰かがまだ我慢していることは、本当に不要なことなのでしょうか。

感染拡大防止のための自粛や我慢や制限は、これからも必要でしょう。
人には人の事情があり、生活があり、守らなければならないものがあり、それらは人それぞれです。しかし今、不安と緊張が、私たちの視野を狭め、周りに対する思い遣りや想像力も奪っているような気がします。

世界中がパニックに陥り、公然とあらゆる制限が掛けられる社会を、私たちは知ってしまいました。誰もが恐怖と不安を拭いきれない今だからこそ、拒否や否定や非難ではなく、もっと温かい柔らかいもので心を満たしてほしいと思います。私たちの誰もがもう少しだけ、緩くて優しい気持ちを持てるこれからの社会のあり方を、皆さまとともに考えていければと願っています。

 

2020年6月14日
熊本市現代美術館
副館長 岩崎千夏

 

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