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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」[記念講演会] 祖父江 慎

2020.11.28 ,

ムーミン展の関連イベントとして、ゲストにブックデザイナーの祖父江 慎(そぶえ・しん) さんをお迎えし、記念講演会、「トーベ・ヤンソンと闇に暮らす小さな生きものたち ーヤンソンのブックデザインを通して感じたこと」を開催しました。

祖父江さんは、ムーミンコミックスをはじめ、ムーミン絵本3部作、大人向け小説「トーベ・ヤンソン・コレクション」の装丁など、数々のトーベの出版物に携わられ、2014年の「生誕100周年 トーベ・ヤンソン展」ではアートディレクターも務められた人物。そのような祖父江さんの仕事と視点を通して、ムーミンとトーベにアプローチするトークショーです。

本題に入る前に、祖父江さんがデザインの方針として掲げているテーマ「上手くいかない喜び」についてのお話がありました。
物事は大体予想通りには行かないが、その事に対して不安を持つのではなく、
そういう状況の中でも豊かに暮らしていけるような知恵をデザインで実現できれば、と考えているそうです。

講演会は、祖父江さんのムーミンとの出会いであったアニメのお話からはじまりました。
少年の頃、テレビ放送されていたムーミンに釘付けだったという祖父江さん。原作の小説とは異なる魅力について熱く語られ、挿入歌まで歌ってくださいました!
また、アニメはムーミンの丸いお尻が動くところからはじまりますが、これはヨーロッパの新聞で連載されていたコミックスに倣っているそうです。その他、コミックスのムーミンは、小説と比べてより丸っぽく描かれていること。弟のラルス・ヤンソンに引き継がれてからは、現代社会的な要素が多数登場するようになり、より人間らしく描写されていること。日本での出版に際しては、トーベが描いた原画が存在しなかったので(トーベが子どもたちにプレゼントしていた)、初期の原本をスキャニングして作られたエピソードなどをご紹介いただきました。

作者トーベについては、戦時中、風刺雑誌『ガルム』の挿絵で社会や政治に対するメッセージを発信し続けた勇気ある女性。大きな力ではなく、弱い人たちが豊かにどう生きるかを1番に考えていた人物ではないかと話されました。そのようなトーベの考え方は、ムーミンの物語に登場するキャラクターたちにも反映されているとのことです。

その他にも、『生誕100周年 トーベ・ヤンソン展』のカタログ制作時の話から、
トーベの画家としての絵の変化、展示作品の紹介、
そして、今回の講演会タイトルにも入っている「闇」の表現についても詳しくのべられました。
特に興味深いのは、トーベは闇に「安心」を重ね合わせており、トーベのテーマカラーは「黒」という祖父江さんの見方。
100周年展のカタログが黒い表紙なのは、そこに由来するそうです。

最後に、本がどうやって作られているのか。「トーベ・ヤンソン・コレクション」の貴重なフォーマットと
造本プランをご紹介いただき、コミックス、絵本それぞれの特徴をご説明頂きました。
絵本は、オリジナルの作り方に倣って製作。抜き型があったり、通常の2倍近いインクの使用など、
トーベの物づくりに対してのこだわりと考えが、強くデザインに反映されていると話されました。

ご自身が大のムーミン好きで、ブックデザインという仕事を通じて
ムーミンやトーベと深く向き合ってきた祖父江さんのトークは、貴重なエピソード満載の1時間半でした。
「不安が多い世の中ですが、豊かにいきましょう」という言葉で、講演会は締めくくられました。

【参加人数46人】

 

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