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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

平成28年熊本地震から5年――地震災害と新型コロナウイルス

2021.04.16 ,

平成28年4月14日の前震、16日の本震という、熊本地震から5年が経ちました。

熊本では、壊れた建物は解体され、或いは建て替えられ、街なかにいる限り、その痕跡はあまり見当たらなくなりました。

忘れたわけではないけれど、熊本城の崩れたままの石垣すら、見慣れた風景になってしまいました。

 

それでも、今年の2月に起こった福島県沖の震度6強、東日本大震災から10年経っての余震、緊急速報の警戒音を聞いた時は、心臓をわしづかみにされたような気がしました。

今現在も、東北、和歌山、長野、トカラ列島近海など日本各地で、地震は頻発しています。

5年前に地震を経験した私たちは、もう、どこかで起こる地震に無関心ではいられません。

 

あの時のことを忘れてはいけないと思う人々の決意、忘れたくても忘れられない人々の祈りが被災地にはあります。

災害を語り継ぐということは、「事実を記憶し、継承していく」とともに、「未来に被災した人を慮る」気持ちを継承していくことなのかもしれません。

被災体験者は、身の竦むような恐怖や不安を心の中に飼いつづけていかなければなりません。でも、その恐怖や不安は、次の被災者を想う優しい気持ちの原動力にもなり得るのだと思います。人を想うことで、自分もまた救われているような気がします。

 

 

一方でこの一年、私たちは地震とは全く違う災害に見舞われています。

新型コロナウイルスの感染は、未だ収束にはほど遠い状況です。

 

熊本地震の時、私たちが受けた見も知らぬ人たちのたくさんの温かい気持ちや言葉、支援の手。

ウイルスに感染してしまった人、それらを救おうと闘っている人に対しても、きっと同じことができる力を、本来、人は持っているのだと思います。

心のうちの不安を攻撃ではなく、誰かの痛みを想像する力に変えること。

コロナ禍におけるそれは、直接的な支援というよりも、自らも感染しない努力であり、大変な人々への励ましや労りの言葉であり、一刻も早く収束させようという決意かもしれません。

 

ミヒャエル・エンデという人の作品に『モモ』という児童文学があります。

「時間貯蓄銀行」に預けるつもりで、灰色の男たちに時間を盗まれた人々は、どんどん忙しなく、ギスギスして、周囲への気配りや思い遣り、優しさを持つ余裕を失っていってしまいます。

彼らはごく普通の人たちで、ただ少しだけ、ゆとりを持ったり豊かになったりしたかっただけなのに、不安はますますゆとりのなさを増幅していき、社会は冷たい灰色の世界になっていきます。

 

ウイルスもまた、時間と同様に目に見えません。そして確実に私たちの心を蝕んでいるように思えます。

 

それでも地震の時、私たちは多くの人の温かみに触れました。あの優しさは今の私たちの力にもなっています。

あの時、温かい気持ちを届けてくれた皆さんが、私たちの心を支えてくれたように、コロナ禍もまた、人を想うことが、冷静で温かい社会を取り戻すきっかけになると信じています。

 

あの地震から5年が経ちました。

新型コロナウイルスから5年という日も必ず来ます。

ワクチンの接種も始まりました。

 

熊本市現代美術館は、直接的に新型コロナウイルスを撃退することはできません。感染した人を治療することも、医療従事者の皆さんを手伝うこともできません。

しかし私たちは、熊本地震を体験したあの日々もこのコロナ禍も、決して無駄ではなかったといつか思うために、自分ではない誰かの気持ちを想像し、受け止める方法を、そして、このような時代だからこその熊本市現代美術館の役割を、これからも皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

2021416

 

熊本市現代美術館

副館長 岩崎千夏

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