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美術館の日常のあれこれをお伝えします。

「塔本シスコ展」館長挨拶

2022.02.05

開会式では、シスコさんのお孫さんからもお言葉をいただきました。とても不思議な気がします。当然、絵があれば作者がいます。作者がいれば、その親戚やお友達がいるわけです。

われわれが絵をみるとき、ちょっとここから遠い、ここではない違う世界を想像します。でもすぐ近くにはお孫さんがいる。シスコさんと血のつながった人がいる。その感覚がとても不思議ではありますが、「塔本シスコ展」を見たときに、息子さんやお孫さんたち、周りの人たちの温かさ、シスコさんを応援し受け入れる方々の雰囲気というものを、絵の中にたくさん感じることができました。

会場には200枚を超える作品があります。「塔本シスコ展」は、世田谷美術館からはじまり、熊本、岐阜、滋賀と巡回します。シスコさんの親戚含めた家族が、国内を大旅行しているかのように思えます。

われわれも自分たちの親戚がいて、親戚の家や空気感といったものが、自分たちの記憶の中にたくさんあります。「久しぶり。大きくなったね」「ここの花、今年もまた咲いたね」といった、繰り返される会話が親戚の中にはあると思いますが、そういう雰囲気が展示室の中にあります。絵を見るというよりは、人と会う。しかも、一人の人というよりは、親戚と出会う空気感があります。

私も絵を描いています。絵を描くときにどんなモチベーションで、どんな気持ちで描くのかは、アーティスト、表現者によって様々です。自分の美意識を追求して、孤高の中でひたすら自分と語り合い制作するタイプの作家や、世界のアートの文脈の中で、自分の時代を表現しようとする作家などさまざまいます。

でも一番大事なのは、自分の気持ちを伝えたいというモチベーションです。その伝える相手は誰なのか。シスコさんの絵を見ていると、ある時間、ある場所の、その時の自分に伝えたい、そのときの自分にもう一度会いたい、という気持ちがすごく感じられました。生まれ育ったところ、国内のいろいろなところを親戚や息子さんと訪れながら出会った風景。そこにいた自分ともう一度会いたい。そんな気持ちになりました。絵を見ると、いろんなところに行くことができます。場所も時間も超えて、ここじゃないいろんなところに行ける。そんなことをシスコさんは自分の中で繰り返していたんだろうと思います。

今は高齢化社会ですが、100歳に近い歳まで絵筆を握って表現されていたというのは、やはり自分の中ですごく大事な大事な場所と時間があったからこそ、最期まで絵を描き続けられていたんだと思います。

いろいろな展覧会が美術館で行われていますが、「塔本シスコ展」は、一人の人間の感性と熱量で覆われた素敵な展示空間を体験することができます。熊本のあとも、日本の各地の美術館に巡回しますので、日本中の人たちにシスコさん、そして熊本の魅力を伝えられると思います。まだ私は宇城市にはお邪魔したことがないので、シスコさんが見た風景を見てみたいと思っています。不知火美術館にも伺いたいと思います。

明日から展覧会がはじまります。ぜひ熊本市の方々に見ていただきたいと思っています。ありがとうございました。

日比野克彦

 

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