PAPER:かみと現代美術
2022.10.1(土)〜 2022.12.18(日)
今から2000年以上も前に発明されて以来、私たちの生活のあらゆる場面に浸透した必要不可欠な素材、「紙」。情報の記録や意思伝達をはじめ、ものを包む、液体を拭う、光をとおす・・・など、その機能と役割は枚挙にいとまがありません。「紙」の幅広い活躍は、しなやかで応用しやすい性質や特長によるものですが、そこには人間が与えた何らかの操作や社会の中での機能が伴っています。「紙」になるまでも「紙」となってからも、人とのかかわりなしには存在しない素材なのです。
本展ではそのような「紙」「紙製品」に注目し、独自の表現へと昇華させた現代アーティストをご紹介します。彼らの作品は「紙の上に」ではなく、「紙とともに」アイデアを視覚化したものと言えます。誰にとっても馴染みのある「紙」をとおして、本展のアーティストたちが投げかける問いは、私たちを取り巻く世界や価値観を様々な角度から照らし出してくれることでしょう。
出品作家
半谷学 、 半澤友美 、 安部典子 、 ウチダリナ 、 播磨みどり 、 太田三郎 、 小野田賢三/照屋勇賢 、 渡辺英司 [展示構成順に表記]
半谷学 HANGAI Manabu | 1963年北海道生まれ、群馬県在住。
半谷学は、世の中の不用物や大量廃棄物のような「困りもの」にアプローチし、独自の「紙」にして作品を制作するスタイルで知られています。半谷の作品は、社会や環境について目を向けるきっかけを与えるとともに、「紙にする」ことによって、柔軟な発想や新たな可能性が得られることも示唆します。本展では、熊本県の特産品である畳の生産工程で生じる、「い草」の端材から紙を作り、その「い草」の紙と、忘れ物の傘による大規模なインスタレーションを発表します。
半澤友美 HANZAWA Tomomi | 1988年栃木県生まれ、東京都在住。
半澤友美は、溶いたパルプをスポイトで吸い上げ、それを一滴ずつ垂らすことで平面もしくは立体作品を制作しています。実用的な紙を作るための作業とは異なるものの、紙の生成過程そのものが自身の表現行為と一致しているという点が極めてユニークです。また今回、叩いて作る「樹皮紙」にヒントを得た作品にも挑戦します。「紙に成っていく」プロセスとそこに伴う繰り返される動作・行為には、「記憶」や「時間」「痕跡」といったテーマが重ねられます。
安部典子 AMBE Noriko | 1967年埼玉県生まれ、埼玉県在住。
安部典子は、紙を「カットする」アーティストです。木の年輪、地層、洞窟といったものを連想させる安部の作品は、一枚の紙にフリーハンドによる線やかたちのカッティングを施し、何百枚と重ねることで作られています。統一規格の紙から生み出される有機的なかたち、そこに内在する時間。「時間と自然と人間のシンクロニシティ」というテーマを具現化しようとする安部の作品は、二次元と三次元の間を、そして「無い」かたちと「有る」かたちとの間を揺れ動きながら、観る者のイマジネーションを様々に刺激します。
ウチダリナ UCHIDA Lina | 1990年東京都生まれ、東京都在住。
ウチダリナは和紙を素材とする作家です。型取りによる紙の立体物、熱を与える(=焦がす)ことで色の濃淡を生じさせた独自の「彩色」など、和紙に向き合う中で獲得した手法で制作しています。その作品には、紙の薄くて軽い、儚げな印象と、しなやかで可塑性に富む、タフな性質の両方を見て取ることができるでしょう。また、紙一枚が接している/引き受けている外と内の世界が、蛾の翅や人間の皮膚といったモチーフともリンクして、境界のありようについて問いを投げかけます。
播磨みどり HARIMA Midori | 1976年神奈川県生まれ、神奈川県在住。
播磨みどりは、コンセプチュアルに版画と向き合っているアーティストです。これまで、その性質や制作のプロセス、社会的な機能や意味にフォーカスすることで、版画や印刷物を多角的に考察した作品を手がけてきました。本展では版画に対する関心の延長線上に、版画にとって欠かせない素材である「紙」に光を当てることを試みます。播磨の作品は、紙を使うことの必然性や意味について、そして紙そのものについての再考を促します。
太田三郎 OTA Saburo | 1950年山形県生まれ、岡山県在住。
太田三郎は、切手を使った作品で広く知られているアーティストです。切手以外にもハガキや新聞といった身近な紙製品、紙媒体にもユニークな視線を投じ、時事的なテーマを取り込みながら、現代社会の一端を示唆する優れた作品を発表してきました。本展では、新型コロナウイルス感染症によって亡くなった人の数と同数の切手による《Bird Net―世界はつながっている「献花」》、東日本大震災の起こった2011年の新聞をハガキ大に漉いた作品《Papers 2011》などをご紹介します。
小野田賢三 ONODA Kenzo | 1961年群馬県生まれ、群馬県在住。
照屋勇賢 TERUYA Yuken | 1973年沖縄県生まれ、ベルリン在住。
照屋勇賢は、ショッピングバッグやトイレットペーパーの芯など、主に工業製品としての紙を用いた作品で知られるアーティストです。その作品には、ユーモアとともに、見過ごされがちな問題や物事の本質を浮かび上がらせる力があります。本展では、照屋が2011年3月12日の『上毛新聞』第一面に植物の芽を立ち上がらせた《Minding My Own Business》を、小野田賢三が持ち歩いて国内や欧州の人々とコミュニケーションを図り、官製ハガキを「折る」ことを通して、彼らそして照屋との応答を試みた「アクション」ともいうべき《Pilgrim》をご紹介します。新聞とハガキ、ふたつの紙媒体の相互関係とも言えるこの「アクション」は、約10年緩やかに行われ、またこれからも続けられていきます。
渡辺英司 WATANABE Eiji | 1961年愛知県生まれ、愛知県在住。
身近な素材に手を加え、人間の振る舞いや思考を明らかにする渡辺英司。その代表作、《名称の庭》と《蝶瞰図》は、図鑑に印刷された植物や生物を切り抜いて「解放」させた作品です。人間は自然を知るために、「名前を与える」ことをしてきました。また、紙が記録や伝達といった役割を担ってきたことを鑑みれば、図鑑や百科事典は、そのような人間の欲望とそれに突き動かされた行為を代表するものと言えます。渡辺の作品は、紙という器の中に見えてくる人間の姿を浮き彫りにします。
くしゃくしゃおばけ
「くしゃくしゃおばけ」は、ねじった2枚重の新聞紙を組み合わせてロープで縛り、天井から吊るした大型の遊具です。大小さまざまなくしゃくしゃおばけが集まって、まるで新聞紙の森のよう!ブランコのように乗ったり、大きなおばけに隠れたり、触って音を鳴らしたり・・・。身近な紙素材の代表である新聞紙を通して、自由に遊び方を見出すことができるスペースが登場します。
※「くしゃくしゃおばけ」はPLAY! PARKと東京都市大学手塚研究室との共同開発で発案されました。
※10月の「新聞週間」に合わせて、新聞紙で遊ぶワークショップも開催予定。(詳細は9月中に発表)
展覧会情報
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開催期間
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2022年10月1日(土)~ 12月18日(日) 68日間
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会場
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熊本市現代美術館ギャラリーⅠ・Ⅱ
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休館日
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火曜日
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開館時間
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10:00 — 20:00(展覧会入場は19:30まで)
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観覧料
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- 一般:
- 1,100(900)円
- シニア〔65歳以上〕:
- 900(700)円
- 学生〔高校生以上〕:
- 600(500)円
- 中学生以下:
- 無料
※( )内は前売料金。前売料金は下記の方にも適用。
20名以上の団体/電車・バス1日乗車券、JAF会員証、緑のじゅうたんサポーター証、美術館友の会証をご提示の方。
※各種障害者手帳をご提示の方と付き添いの方1名は無料。
(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳等)
※10月12日(水)は開館記念日のため入場無料
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チケット取扱い
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熊本市現代美術館、イープラス(e+)、ローソンチケット[L コード番号:84093]、セブンチケット[セブンコード:096-432]
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主催
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熊本市現代美術館(熊本市、公益財団法人熊本市美術文化振興財団)、熊本日日新聞社
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助成
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芸術文化振興基金
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後援
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熊本県、熊本県教育委員会、熊本市教育委員会、熊本県文化協会、熊本県美術家連盟、熊本国際観光コンベンション協会、NHK熊本放送局、J:COM、エフエム熊本、FM791
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プレスリリース
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