文化を通して考える、つながりの力
3月13日、熊本市生涯学習課と共催で公開トーク「人はどこで元気になるのか」を開催しました。
熊本市では現在、生涯学習推進計画に基づいて様々な取組が進められています。そのなかで、“生涯学習”について新しい視点や気づきを得る機会とすることを目的として、異なる業種やさまざまな経験を持つ人同士が集まり、堅苦しい「連絡会議」ではなく、気軽に話し合う場をつくることとなっています。今回、約90分間のざっくばらんな語り合いの場として企画された本イベントには、予想を上回る方々にご参加いただきました。
「文化的処方」という考え方
今回のトークイベントの背景には、熊本市が東京藝術大学と連携して研究・開発している「文化的処方」という考え方があります。
文化的処方とは、アートや文化活動を通じて人とのつながりや、自分の内面とのつながりに価値を見いだし、心身の健康や暮らしの豊かさにつなげていく取り組みで、地域活動やコミュニティ参加によって孤立を防ぐ「社会的処方」を発展させた考え方ともいえます。
例えば、誰かと食卓を囲むことや、何かに深く興味を持ち、考えてみること、本を読むこと。そうした日常の文化的な営みのなかに、人が元気を取り戻すきっかけがあるのではないか――そんな問いを参加者全員で考えました。
「元気」とは何だろうー登壇者それぞれの「元気の源」
まずは、熊本大学大学院先端科学研究部准教授の田中尚人さんの進行のもと、登壇者それぞれの経験に基づく「元気になれる瞬間」が語られました。
蔦屋書店熊本三年坂館長の野田さんは、本を販売するだけではなく、人と人が出会い、新しい発見が生まれる場をつくれたときに大きな喜びを感じると話しました。
有限会社カジオ企画代表取締役でゲームクリエイターの櫻井さんは、知的好奇心が満たされる瞬間に元気をもらうと語ります。新しい知識や考え方との出会いが、自分自身を前向きにしてくれるそうです。
熊本市現代美術館副館長(当時)であり、文化的処方推進室長を務める岩崎さんは、特別な出来事ではなく、日常のなかの小さな楽しみや発見に幸せを感じることが多いと話しました。
また、熊本市生涯学習課の社会教育主事である小原さんは、人から頼られたり感謝されたりすることで、自分自身も元気をもらえると語りました。
どの話にも共通していたのは、「元気」は一人で完結するものではなく、人や場所、体験との関わりのなかで生まれているということでした。
一口に「元気」といっても、その意味は人によって異なります。忙しく過ごしていると、自分が無理をしていることに気づかない場合もあります。だからこそ、「自分にとって元気とは何か」「どんなときに元気を感じるのか」を時々言葉にしてみることが大切だと感じました。

文化は人との関係のなかにある
対話のなかでは、「文化とは何か」というテーマにも話が広がりました。
文化は、美術館や芸術作品だけを指すものではありません。人との関係や思い出、日々の営みの積み重ねもまた文化です。そして、自分の考えや感情を表現し、それを誰かと共有することで文化はより豊かなものになります。今回のトークでも、参加者同士が語り合うことで新しい気づきが生まれ、それぞれの「元気」の形が少しずつ見えてきました。
対話を続けるために
参加後のアンケートでは、次のようなご感想が寄せられました。
【参加者アンケート(抜粋)】
・民間や行政や大学や財団など、職種が違う人たちが、やらされ感がなく、自然に集まって座談会が開ける場はすごいと思いました。
・今の時代、何かクリエイティブなことをやろうとしてもリスクが多い。また、アートな活動をやる場合、著作権やその他の権利との調整が分かりにくく、安心してやるための知識や支援が必要である。そのような、支援の場を設けてもらえれば、もっと安心して活動ができるので、そういった具体的な処方箋も、今後、出していただければと思う。
・最近はタイパ、コスパ、オンラインで、「正しいこと」のみ伝えられて、間違いを許容しない世の中になったなと感じます。本当に伝えるべきは、行間や例外、失敗した人の感情やそこから立ち上がる想いだなと思います。
・私にとって「文化」とは?の答えに、私の中でもいつも他者がいて、じゃあ自分一人じゃ「文化」はないのかなと思ってました。今日、イベントに参加して、自分との対話にも文化があると知りました。
・文化をこれまでよく考えられてなかったが自分の根底にあるものだと思った。今の自分はそれをどう表現したいかを探しているのかなと思ってます。
・文化とは面白がることかと思っています。面白いと思うかは人それぞれだけど、みんなで寄って面白がると文化になるのかなぁ。
どのような場で人は心地よさを感じるのか。文化的処方は、まだ発展途上の取り組みです。しかし、対話を重ねながら一人ひとりの元気のあり方を探り、その人らしいつながりを育んでいく可能性を秘めています。
おわりに
「人はどこで元気になるのか」
その答えは一つではありません。本やアート、人との会話、日常の小さな喜び。元気のきっかけは、それぞれの暮らしのなかにあります。
今回の対話を通して見えてきたのは、自分自身の元気のきっかけを知ることと、他者の元気の形に耳を傾けることの大切さでした。(参加者50名)
開催後、参加者のおひとりから、グラフィックレコーディングの動画をいただきました!
