漫画家生活30周年 こうの史代展
鳥がとび、ウサギもはねて、花ゆれて、走ってこけて、長い道のり
2026.1.4(日)〜 2026.3.8(日)
『夕凪の街 桜の国』(手塚治虫文化賞新生賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞)、『この世界の片隅に』(文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞)等で知られる漫画家・こうの史代の全貌に迫る初の大規模原画展です。
デビュー前のイラストから最新作まで、500枚以上の漫画原画と下書きやメモなど多数の貴重な資料群を通して、漫画家生活30周年の道のりをたどります。
当館は、開館当初より漫画を現代アートのひとつとして扱ってきました。また熊本県は近年「マンガ県くまもと」を掲げています。漫画の専門学科を設けている大学や高校もでき、漫画への注目度が高まっています。本展では、そんな「マンガ県」ならではのイベントの数々と、膨大な原画展示によって、多彩なこうの芸術の魅力を紹介します。
こうの史代にはアシスタントがいません。一人で描いているからこそ、その原画には「一枚の絵」としての魅力があります。一貫した愛らしいタッチと、一作ごとに異なる挑戦に溢れています。紙の上にどこまでも広がる、漫画表現の可能性をお楽しみください。
展覧会の見どころ
見どころ1漫画家・こうの史代の過去最大の展覧会
大ヒット作『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』の原画展はこれまで数多く開催されてきましたが、デビューから現在までを網羅した大規模な回顧展は、本展が初めてです。500枚以上の漫画原画を展示、膨大な挿絵原画、絵本原画、作品のコンテやメモ、ブログ「こうのの日々」に登場するスケッチブック、制作風景を記録した初公開の映像など、こうの史代の画業のすべてがわかる展覧会です。
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《夕凪の街 桜の国》カバーイラスト、2004年©こうの史代/コアミックス -
制作風景 展示予定の動画より(撮影:白井茜) -
《街角花だより》1995年 ©こうの史代/コアミックス -
《ギガタウン 漫符図譜》 2016年 ©こうの史代/朝日新聞出版
見どころ2貴重なデビュー前の原画
デビュー前の原稿、また高校生の頃に制作した漫画の原画も展示いたします。すでに「こうの史代」ならではのタッチが、読者を今でもほんわか、楽しい漫画の世界に誘います。
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WEEKLY漫画アクション新人賞募集イラスト、1992年 ©こうの史代
見どころ3「1枚の絵」としての漫画原画
こうの史代はその初期からアシスタントを起用せず、原稿をすべて一人で描いています。着彩も本人がやっています。また一部を除いて、スクリーントーンをほとんど使用していません。原画で私たちが見ているのは、こうの自身の手によって描かれた線です。「1枚の絵」として、その線の躍動する魅力、新鮮な色彩の力を感じていただけると思います。
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《星月夜》(「太田川」表紙、広島太田川ライオンズクラブ)1996年 ©こうの史代 -
《日の鳥》表紙イラスト、2016年©こうの史代/日本文芸社
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《かっぱのねね子》2001年©こうの史代/朝日新聞出版
見どころ4「読める」展示
連載作品の場合は1話単位、短編は全ページを基本に原画を展示いたします。こうのが構成したストーリーを分断せず、制作しているその時の「漫画家の気持ち」を体感することができます。各単行本のカバーのカラー原画も必見です。
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《こっこさん》1999年 ©こうの史代/エブリスタ -
《長い道》2001年 ©こうの史代/コアミックス
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《この世界の片隅に》2007年©こうの史代/コアミックス
見どころ5当館のみの描き下ろし作品
熊本会場オリジナルの「あとがき」を展示スペースの最後に展示いたします。
こうの史代は、今年で漫画家生活30周年を迎えます。
こうの史代の漫画は、デビューの最初から、キャラクターも、背景も、等しく愛らしいタッチで描かれています。それは4コマ漫画でも、ほのぼのショートストーリーでも、神話ものでも、戦争ものでも変わりません。戦争ものだから急にシリアスに、というふうに描くことがないのです。これまでの作風の流れを切断しないことで、すべてがつながっている、読者はそう感じます。見た目は愛らしいけれども、力強さ、柔軟さ、しぶとさがその線には宿っています。
こうの漫画は、愛らしいタッチのまま、実に多彩です。どれをとっても、似た作品がありません。ひとつの作品を描くごとに、新しい、まだ見たことのない漫画表現の可能性へ向けて、一歩ずつ歩き続けているからです。こうの史代のいる場所から見ると、見慣れたはずの「漫画」という表現が、新鮮な姿に見えてきます。ほら、まだこんなに描くことがあるよ、というように。そう、決してこうの史代は、一つや二つの作品で、象徴できる漫画家ではないのです。一人の漫画家として、こうの史代が歩いてきたすべての道のりを、この展覧会ではたどります。
本展は、一人で見に来たとしても、きっとさびしくないでしょう。それは、彼女のあたたかい、友達のような目線が、原画を見るあなたと見つめ合うからです。
福永信(本展監修者/小説家)
こうの史代(こうの ふみよ)
1968年広島市生まれ。広島大学理学部中退。放送大学教養学部卒。1995年、「街角花だより」の連載で漫画家デビュー。インコとの日常を描く4コマ漫画「ぴっぴら帳(ノート)」で人気を博す。ニワトリと少女のユニークな日々を綴ったショートストーリー漫画「こっこさん」、子供の心を見開きページに釘付けにしたカラー漫画「かっぱのねね子」も同時期に連載。夫婦の気ままでコミカルな永遠の一日を捉えた「長い道」、こうの自身より年齢が上の主人公を初めて描いたドタバタ二世帯喜劇「さんさん録」でさらなる新境地を開く。原爆の被害とその後に続く“終わっていない”日々を真摯に紡いだ「夕凪の街 桜の国」を発表し、話題に。同作で第9回手塚治虫文化賞新生賞、第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞、映画化やドラマ化もされた。広島の軍都・呉の戦災を描く「この世界の片隅に」は、戦前から戦後まで、個人の時間を奪う戦争の惨禍のすべてを、日常の低い視点から力強く描いた。本作は第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞、またアニメーション映画(監督片渕須直)がロングラン大ヒットを記録。こうのにとっても集大成的な作品となった。その後も漫画という表現に対する好奇心は尽きず、非凡な才能炸裂のエッセイ漫画「平凡倶楽部」、ボールペンだけで古事記を忠実に漫画化した「ぼおるぺん古事記」(古事記出版大賞稗田阿礼賞受賞)、東日本大震災の翌年から描き継がれている「日の鳥」、漫符を素材にした画期的な漫画図鑑「ギガタウン 漫符図譜」、百人一首と遊んだ 華麗なるカラー1コマ漫画「百一」など、ひとつとして似ていない作品を続々と発表。2025年4月には「ぼおるぺん古事記」以来、12年ぶりとなる長編「空色心経」を刊行。般若心経とコロナ禍の日々を2色の糸で撚り合わせるように重ね、時空を超えた世界と日常を結んでみせた。同年同月刊行の最新刊に「ヒジヤマさん 星の音 森のうた こうの史代短編集」がある。現在、小説新潮で1ページ漫画「かぐやサン」を毎月連載中。ブログ「こうのの日々」では「空色心経」の制作過程やインコTさんとの日常、日々のスケッチなどを公開している。
監修者 福永信(ふくながしん)
1972年東京都生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)芸術学部中退。1998年、短編「読み終えて」でリトルモア・第1回ストリートノベル大賞を受賞し小説家デビュー。主な小説集に「アクロバット前夜」、「コップとコッペパンとペン」(表題作でユリイカZ文学賞受賞)、「星座から見た地球」、「一一一一一」、「実在の娘達」など。アンソロジー編集に「こんにちは美術」、「小説の家」(第4回鮭児文学賞受賞)、企画編集に「フジモトマサル傑作集」、展覧会企画協力に「カワイオカムラ ムード・ホール」展、「絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界」展、「芦屋の時間 大コレクション」展など。「遠距離現在Universal/Remote」展図録に短編小説を寄稿。2015年、第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
展覧会情報
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開催期間
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2026年1月4日(日)―3月8 日(日)(55日間)
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開館時間
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10:00―20:00(入場は19:30まで)
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休館日
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火曜日
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会場
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熊本市現代美術館 ギャラリーⅠ・Ⅱ
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観覧料
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- 一般:
- 1,300(1,100)円
- シニア(65歳以上):
- 1,000(800)円
- 学生(高校生以上):
- 800(600)円
- 中学生以下:
- 無料
※()内は前売り/20名以上の団体/電車・バス1日乗車券等をご提示の方
※各種障害者手帳をご提示の方と付き添いの方1名無料(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳等)
※うぇるかむパスポートをご提示の方は無料
※前売り券の販売は12月28日(日)まで
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チケット取扱い
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熊本市現代美術館
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主催
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熊本市現代美術館(熊本市、公益財団法人熊本市美術文化振興財団)、熊本日日新聞社、KKTくまもと県民テレビ
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後援
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熊本県、熊本県教育委員会、熊本市教育委員会、熊本県文化協会、熊本県美術家連盟、熊本国際観光コンベンション協会、J:COM熊本、エフエム熊本、FM791
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協力
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呉市立美術館、コアミックス、朝日新聞出版、日本文芸社、平凡社
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特別協力
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崇城大学芸術学部 デザイン学科マンガ表現コース
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企画
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青幻舎プロモーション
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監修
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福永信