遠距離現在 Universal/Remote

遠距離現在 Universal / Remote

2023.10.7()〜 2023.12.17(

20世紀後半以降、人、資本、情報の移動は世界規模に広がりました。2010年代から本格化したスマートデバイスの普及とともに、オーバーツーリズム、生産コストと環境負担の途上国への転嫁、情報格差など、グローバルな移動に伴う問題を抱えたまま、私たちは2020年代を迎えました。そして、2020年に始まった国境のないパンデミックにより、人の移動が不意に停止されたものの、資本と情報の移動が止まる気配はありませんでした。かえって、資本や情報の本当の姿が見えてくるようになったと思えます。豊かさと貧しさ。強さと弱さ。私たちの世界のいびつな姿はますます露骨に、あらわになるようです。
展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたものです。監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、また人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、あるいはポストコロナ時代の世界と真摯に向き合っているようにも見えます。本展は、「Pan-の規模で拡大し続ける社会」、「リモート化する個人」を軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会の在り方に取り組んだ8名と1組の作品をご紹介します。

出品作家

井田大介 、徐冰(シュ・ビン) 、トレヴァー・パグレン 、ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ+ヒト・シュタイエル+ミロス・トラキロヴィチ 、地主麻衣子 、ティナ・エングホフ 、チャ・ジェミン 、エヴァン・ロス 、木浦奈津子

井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021年 、ヴィデオ(ループ再生)
© Daisuke Ida, courtesy of the artist

井田大介 Daisuke Ida

1987年鳥取県生まれ、東京都を拠点に活動。2015年に東京藝術大学大学院美術研究科(彫刻専攻)を、2016年にMADアートプラクティスを修了。彫刻という表現形式を問いながら、彫刻・映像・3DCGなど多様なメディアを用いて、目には見えない現代の社会の構造や、そこで生きる人々の意識や欲望を視覚化している。2016年からは世界中の人々がインターネット上にアップロードしている匿名的な画像を素材として、インターネット以降のモノや身体の在り方を彫刻する「Photo Sculpture」を継続的に制作している。
本展では3点の映像作品を再構成し、「飛行」「上昇」「落下」のメタファーでコロナ禍社会を可視化する。

徐冰(シュ・ビン)《とんぼの眼》2017年、ヴィデオ、ライブ配信サイトで公開されている監視カメラ映像からの抜き出し(81分)
© Xu Bing Studio, courtesy of the artist

徐冰(シュ・ビン) Xu Bing

1955年中国、重慶生まれ。1987年北京の中央美術学院版画専攻の修士課程修了。ニューヨークと北京を拠点に活動している。実在しない「偽漢字」や漢字のように見える英文「新英文書法」の創作、絵文字と記号のみで書かれた小説「地書」、廃材を用いたインスタレーション作品などで知られている。
本展では徐の初の映像作品《とんぼの眼》(2017)を上映する。チンティンという女性と、彼女に片思いする男性、クー・ファンの切ないラブストーリーが語られる。しかし、この映画に役者やカメラマンは存在しない。全ての場面が、ネット上に公開されている監視カメラの映像のつなぎ合わせである。徐と彼の制作チームは、20台のコンピューターを使って約11,000時間分の映像をダウンロードし、若い男女を主人公にした物語に合わせて編集した。

上映時間:10:50- / 13:50- / 15:50- / 17:50-

《とんぼの眼》関連映像

トレヴァー・パグレン《米国家安全保障局 (NSA) が盗聴している光ファイバーケーブルの上陸地点、米国ニューヨーク州マスティックビーチ》2015年、Cプリント、121.9×152.4cm
© Trevor Paglen, courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; Pace Gallery, New York
トレヴァー・パグレン《軍人のいない戦争(コーパス:目の機械)敵対的に進化した幻覚》2017年、昇華転写印刷、81.3×101.6 cm
© Trevor Paglen, courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; Pace Gallery, New York

トレヴァー・パグレン Trevor Paglen

1974年アメリカ、メリーランド州生まれ、ベルリンとニューヨークを拠点に活動。シカゴ美術館附属美術大学で修士号を、カリフォルニア大学バークレー校で地理学の博士号を取得。地理情報と軍事機密、マシンビジョン、監視と通信システム、AIによる自動生成イメージなどをテーマに、写真、映像、立体作品を制作している。
本展では、大陸間を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した〈上陸地点〉シリーズ、海に敷設されているケーブルを撮影した〈海底ケーブル〉シリーズ、パグレンが設計したAIエンジンが生成したイメージによる〈幻覚〉シリーズの3シリーズを展開。

《ミッション完了:ベランシージ》2019年、3チャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド)、展示空間、47分23秒
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチの共同制作
展示風景:「ヒト・シュタイエル」ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)、2019年
Courtesy the artists; Neuer Berliner Kunstverein, Berlin; Andrew Kreps Gallery, New York; Esther Schipper, Berlin. Photo © Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.) / Jens Ziehe

ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ Giorgi Gago Gagoshidze

1983年ジョージア、クタイシ生まれ、ベルリンを拠点に活動。

ヒト・シュタイエル Hito Steyerl

1966年ドイツ、ミュンヘン生まれ、ベルリンを拠点に活動。日本映画大学とミュンヘンテレビ映画大学でドキュメンタリー映画を学び、2003年にウィーン芸術アカデミーで哲学の博士号を取得した。

ミロス・トラキロヴィチ Miloš Trakilović

1989年ボスニア・ヘルツェゴビナ、トゥズラ生まれ、ベルリンとアムステルダムを拠点に活動。

シュタイエルと、ベルリン芸術大学で彼女に学んだガゴシツェ、トラキロヴィチの3人による共同制作《ミッション完了:ベランシージ》は、2019 年にベルリンのノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)で開催されたヒト・シュタイエルの個展で、レクチャー・パフォーマンスとして発表された後、インスタレーションに再構成された。ファッションをキーワードに、1989年のベルリンの壁崩壊からの30年間の、格差という風景を永遠に見せ続ける資本主義の堂々巡りの旅を説く。

地主麻衣子《遠いデュエット》2016年、HDヴィデオ(40分)
© Maiko Jinushi, courtesy of HAGIWARA PROJECTS

地主麻衣子 Maiko Jinushi

1984年神奈川県生まれ、東京都を拠点に活動。2010年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了。2019年から2020年までヤン・ヴァン・エイク・アカデミーのレジデンスプログラムに参加。映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを総合的に組み合わせて作品を制作する。近年の『葬いとカメラ』(2021年)には、死と葬いを映像で記録することに関して文化人類学者金セッピョルと行った対話がおさめられている。
《遠いデュエット》は、自身が「心の恋人」とする詩人・小説家のロベルト・ボラーニョ(1951–2003年)にあてた手紙のような、5章からなる約40分の映像作品である。

ティナ・エングホフ《心当たりあるご親族へ――男性、1954年生まれ、自宅にて死去、2003年2月14日発見》2004年、アーカイバルピグメントプリント、120×160×5 cm
© Tina Enghoff, courtesy of the artist

ティナ・エングホフ Tina Enghoff

1957年デンマーク生まれ、コペンハーゲンを拠点に活動。ニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー (ICP)で写真を学ぶ。記録写真における表象と可視性の問題を扱う作品を制作する。主に北欧における植民地主義や福祉国家の制度的暴力、アーカイブの権力構造といったテーマに関心を持ち、コミュニティへの参加や共同制作、アート・アクティヴィズムを中心としたプロジェクトを実践する。
誰にも看取られることなく一人きりでこの世を去った人の部屋を撮影したシリーズ〈心当たりあるご親族へ〉では、都市に存在する孤独を問う。

チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013年、シングルチャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド)、15分
© Jeamin Cha, courtesy of the artist

チャ・ジェミン Jeamin Cha

1986年韓国生まれ、ソウルを拠点に活動。2010年に韓国芸術総合学校美術学部を卒業後、2011年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。映像、パフォーマンス、インスタレーションと執筆活動まで、多岐にわたる媒体で制作を続けている。チャの作品は、身体と心理や感情との関係性を扱い、表現しがたい経験を持つ個人に焦点を当てる。また、技術の進歩によって縮小していく未知の領域を保存することに関心を持っている。
映像作品《迷宮とクロマキー》では、「ネット強国」を自負する韓国社会の片隅で、「配線」という目に見えないインフラを作る作業者の姿から、大量の情報を支える個人の労働が浮かび上がる。

エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年、壁紙、サイズ可変
展示風景:「あなたが生まれてから」ジャクソンビル現代美術館、2019年
© Evan Roth, courtesy of the MOCA Jacksonville. Photo by Doug Eng

エヴァン・ロス Evan Roth

1978年アメリカ・ミシガン州生まれ、ベルリンを拠点に活動。メリーランド大学で建築学を学び、パーソンズ・スクール・オブ・デザインでデザイン&テクノロジーを専攻しMFAを取得。絵画や彫刻からウェブサイトまで多様なメディアにおける芸術制作に、ハッカーの哲学を応用する。彼が共同開発に参加した「The EyeWriter」は、身体が不自由なアーティストが眼球の動きのみで絵が描けるよう開発した装置で、第14回メディアアート芸術祭(2009年)で優秀賞を受賞した。
自身のコンピューターのキャッシュに蓄積された画像を用いた没入型のインスタレーション《あなたが生まれてから》は、本人も知り得ない自画像を写す。

木浦奈津子《こうえん》2023年、油彩、キャンバス、181.8×259.0 cm
© Natsuko Kiura, courtesy of the artist

木浦奈津子 Natsuko Kiura

1985年鹿児島県生まれ、同地を拠点に活動。2010年に尾道市立大学大学院美術研究科油画専攻を修了。一貫して風景、特に日常の景色の油絵を描き続けている。カメラで捉えた近郊の風景をもとに描かれる彼女の作品は、単純で抽象的でありながらも、見たときの風景そのままを保存する不思議な魅力をもつ。
会場では、壁面いっぱいに大小さまざまな風景を木浦自身がインスタレーションのように展示する。

徐冰(シュ・ビン)《とんぼの眼》関連映像

展覧会情報

開催期間

2023年10月7日()〜 12月17日(

休館日

火曜休館

開館時間

10:00 ‒ 20:00(入場は19:30まで)

会場

熊本市現代美術館

観覧料

一般:
1,100(900)円
シニア(65歳以上):
900(700)円
学生(高校生以上):
600(500)円
中学生以下:
無料

※( )内は前売/20名以上の団体/電車・バス1日乗車券、市電緑のじゅうたんサポーター証、熊本県立美術館友の会証、JAF会員証をご提示の方
※各種障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳等)をご提示の方とその付き添い1名は無料
※前売券は10月6日(金)まで販売
※10月12日(木)は開館記念日のため入場無料

主催

熊本市現代美術館(熊本市、公益財団法人熊本市美術文化振興財団)、熊本日日新聞社

企画協力

国立新美術館

後援

熊本県、熊本県教育委員会、熊本市教育委員会、熊本県文化協会、熊本県美術家連盟、熊本国際観光コンベンション協会、NHK熊本放送局、J:COM熊本、エフエム熊本、FM791

巡回

東京展
会期 2024年3月6日(水)‒6月3日(月)
会場 国立新美術館 企画展示室1E
https://www.nact.jp/

広島展
会期 2024年6月29日(土)– 9月1日(日)
会場 広島市現代美術館(B-1, 2, 3展示室、ミュージアムスタジオ)
https://www.hiroshima-moca.jp/

チラシ

作品リスト

ART KISS LETTER

プレスリリース